【10】ミヒャエル・エンデ『はてしない物語』第3回レジュメ

2015年10月10日作成 山根澪

●と○はバスチアンの望みに関係する部分

ⅩⅢ 夜の森ペレリン


望みを求められるバスチアン
バスチアンは途方にくれてだまった。すべては自分しだいということは、無制限の自由をたのしんでいるバスチアンに少し迷惑なことだった。[273]
「すべては自分しだい」と「無制限の自由をたのしむ」が同じことのように思えて読んでいて戸惑ったが、アトレーユの物語を追っている立場から、自分の物語を生む側へ立ったことへの転換か。本を読んで、心を踊らせたり、ときには文句を言っているだけでよかった。それは自由だろう。

月の子に望みを訪ねられ、バスチアンは望みを言い始める。そして、ファンタージエンが生まれる。
●「ぼく、あなたをもう一度みたいな、月の子。あなたがぼくを見つめた、あのときのことを覚えていますか?」[274]
それをもらってどうすればよいのか、見当もつかなかった。せめて、何か生きたものだとよかったのに![274] 
●「ぼくがおもうふさわしい人というのは勇気があって、強くて、美しくて、-王子さまとか、そんな人-とにかく、ぼくのような人じゃないんです。」[278]
だがいつのまにか、自分が美しいというよろこびは少しずつ変わりはじめていた。それがあたりまえになっていたのだ。幸せな気持が少なくなっていたのではない。ただ、それ以外の自分などもともとなかったように思い始めた。(略)つまり望んでかなえられた美しさの代償として、かつてはでぶでエックス脚だったことをしだいに忘れていった。[282]

はじめて忘れるということの描写。上手く出来ないとそのことを忘れられないということを思い出した。

このあたりまで望みはかわいらしい、けれどこのあたりから少し違った望みがでてくる。世界で一番になりたいという望みに変化していく。
●美しいだけではだめだ!バスチアンは強くなりたかった。だれよりも力のあるもの、およそ考えられるかぎり、一番の力持ちになりたい![282]

ⅩⅣ 色の砂漠ゴアプ


●粘り強く、スパルタ式に鍛えられてはじめて、美しさも強さも価値があるのだ。(略)そうだ、ファンタージエン一の大きな砂漠をゆく、これこそいばっていいことだ![289-290] 
●「だけど、ほんとうの勇気ってものがないよな。欠乏に耐え、辛苦を克服するってのは、そりゃたいしたことさ。でも、大胆さとか勇気というものはまた別だ!すごい勇気が必要となるような、正真正銘の冒険に出会いたいものだな。」[295]

ⅩⅤ 色のある死グラオーグラマーン


また、望みの様子が変わる。友人など人を意識しはじめる。
●こうして今では怖れるものがなくなってしまったバスチアンには、新しい望みが、最初は気づかないほどだったが、しだいにはっきりと形をとりはじめた。これ以上一人ぼっちでいたくないという望みだった。(略)自分の数々の能力をほかの人に見てもらい、感嘆され、名声をあげたくなったのだ。[318] 
バスチアンは急に自分の望んていたものがはっきりわかった。アトレーユだ![324]

十Ⅶ 勇士ヒンレックの竜


アトレーユや、その他の人に出会ったバスチアンはその人達にどう思われるかが大事になってくる。

●バスチアンは、アトレーユに無条件に尊敬してもらいたかった。(略)バスチアンがどんなに偉大な詩人か、アトレーユに見せてやらなくては![352]
●「いや、わたしは、あの姫が最も強いものでなければ満足しないというからこそ好きなのだ。」勇士ヒンレックは答えた。
「そうか。」バスチアンは困っていた。(略)
「勇士をして勇士たらしめるためには、ときに怪物も必要なんですがね。」ヒクリオンがとてつもなく立派な黒々としたひげをなでながらそういい、バスチアンに片目をつぶって見せた。[365] 
その後→そのことがあってから、バスチアンは、勇士ヒンレックに竜を考えだしてやったことで、いったい自分は何をしたんだろう、と考え続けていた。[377]

ⅩⅧ アッハライ


●善意と無私の人として有名になったほうがずっとよかった。ほかのものすべての輝かしい模範として仰がれ、「いい人」とか「偉大な徳行の人」とか呼ばれて尊敬されたほうが、ずっとよかった。そうだ、それこそ望むところだったのだ。[378] 
「われたの願いは一つ-どうかわれらに、別なる姿を与えたまえ!」[386]
その後→ほんとうに善いことをしてやったのかどうかも、わからなくなっていた。[393]

「あのおしるしはきみに大きな力を与えている。きみの望みはなんでもかなえられるんだ。けれども、それと同時にきみからあるものを奪っている。きみの世界のことについての記憶を奪っているんだ。」[381]
「それは、きみに道をあたえて同時に、きみから目的を奪い取っている。」[382]
道の先に目的があるんじゃないのか。バスチアンはこのときすでに美しく、強く、勇気があって、なにも怖れず、尊敬され、人を助けることができ、善意と無私を持っていた。

ⅩⅨ 旅の一行


イハのこれまでずっとエルフェンバイン塔に向かっていたという発言を受けて、次の望みをもつ。これは「自分がこう思われたい」という望みとは違い「月の子に会い、この先どうすればいいのか教えてほしい」という望みだが、これはかなえられない。
○「そうだ、ぼくは月の子にもう一度お会いしたい。月の子なら、どうすればよいか教えてくれるよ。」[405]
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